東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1582号 判決 1982年4月20日
控訴人
仁分百合人
右訴訟代理人
西迪雄
同
吉田豊
被控訴人
久住潔
外四名
以上五名訴訟代理人
松本昌道
同
正田茂雄
同
川名照美
主文
原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
右部分に関する被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
当審における被控訴人らの予備的請求をいずれも棄却する。
訴訟の総費用は、被控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
主文第一項ないし第四項と同旨
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 当審において追加された予備的請求
控訴人は、被控訴人らに対し、別紙物件目録第二の建物についての表示登記のうち、床面積壱階部分81.09平方メートルとあるのを床面積壱階部分18.52平方メートルと更正する登記手続をせよ。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 別紙物件目録第一記載の建物(以下「本件建物」という。)は、通称「目黒コーポラス」という七階建のビルディングで、建物の区分所有等に関する法律(以下単に「法」という。)二条一項にいう区分所有権の目的たる六五の同条三項にいう専有部分を包含している。
2 被控訴人らは、日本開発株式会社からそれぞれその分譲を受けた右六五の専有部分の区分所有者の一部であり、控訴人は、右の株式会社について、昭和四九年一〇月二二日東京地方裁判所において更正手続開始決定がなされ、選任された管財人である。
3(一)(1) 別紙物件目録第二記載の建物部分(以下「本件倉庫」という。)は、本件建物の一階にあり、別紙第一図面(平面図)記載の第一倉庫及び第二倉庫を併せた部分であつて、同図面記載のとおり、ロビー及びこれから電気室に通じる廊下の北側に位置し、通路に面する側は壁及び扉などにより仕切られ、また、その余の三面は壁によつて仕切られた本件建物の部分であり、床から天井までの高さは約2.89メートルあり、倉庫として利用されている。本件倉庫の西側には、同図面記載のとおり、ポンプ室及び電気室が並んで存在している。本件倉庫は、同図面記載のように、床面積18.52平方メートルのいわゆる第二倉庫部分(以下「本件第二倉庫」という。)とその余のいわゆる第一倉庫部分(以下「本件第一倉庫」という。)からなり、両者はコンクリートブロックで床から天井まで仕切られている。本件第一倉庫内には、本件建物の共用設備である電気スイッチ及び積算電力計の配電盤が別紙第二図面の位置に設置され、換気、汚水処理及び揚水ポンプなどの動力系スイッチが同の位置に設置され、いずれも錠を施したボックスに収められており、また、同図面の記載のとおり、床面の二個所には、本件建物全体の用に供されている汚水マンホール及び雑排水マンホールが設置されている。さらに、床面より約2.05メートルの高さのところに、別紙第一図面記載のとおりの位置に、電気、水道等のパイプが通つている。前記電気スイッチ及び動力系スイッチ操作のため本件建物の管理人が一日三回程度入室しなければならない。
(2) 右のような本件第一倉庫が一所有者の独占的管理下におかれるときには、右各スイッチの操作が不可能となり、本件建物全体の管理運営に重大な支障を来たすことになる。このような建物の部分は、本件建物全体、換言すれば区分所有者全員の共用に供されるべきものであつて、法三条一項の規定により、区分所有権の目的となりえないものであり、専有部分以外の建物の部分として法二条四項に規定する共用部分に該当するものというべきである。
(二)(1) また、本件第二倉庫には、別紙第一図面記載のとおり、本件第一倉庫の天井に張りめぐらされた水道及び電気のパイプが延長されて、同倉庫内の天井にも配管されている。
(2) 本件第二倉庫は、右のように共用設備が設置されているうえ、その床面積が18.52平方メートルにすぎず、独立の建物としての用途に供しうるものではないから、本件第一倉庫と同じく、区分所有権の目的となり得ない共用部分というべきである。
(三) 以上のように、本件第一倉庫及び本件第二倉庫がいずれも区分所有権の目的とならないものであるから、これらを併せた本件倉庫も全体として、区分所有権の目的とならない共用部分に該当するものというべきである。
4 仮に、本件第二倉庫が区分所有権の目的となりうる建物であり、控訴人の所有であるとしても、本件第一倉庫は前記のとおり区分所有権の目的とならない共用部分であることが明らかである。
5 しかるに、日本開発株式会社は、本件倉庫が区分所有権の目的となり、自己の所有に属するものとして、本件倉庫につき東京法務局渋谷出張所昭和四九年六月一七日受付第二〇一〇二号をもつて所有権保存登記(以下「本件所有権保存登記」という。)をした。
6 よつて、被控訴人らは、控訴人に対し、共用部分たる本件倉庫についての共有持分権に基づき、保存行為として、主位的に、本件所有権保存登記の抹消申請手続をすることを求め、予備的に本件倉庫についての表示登記のうち床面積壱階部分81.09平方メートルとあるのを18.52平方メートルと更正する登記申請手続をすることを求める。
二 答弁
請求原因1、2、3(一)(1)、(3)(二)(1)の各事実、同3(二)(2)の事実のうち本件第二倉庫の床面積が18.52平方メートルであること並びに同5の事実は、いずれも認めるが、同3(一)(2)、3(二)(2)及び3(三)の各主張は、いずれも争う。同4の主張のうち本件第一倉庫についての主張は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1、2、3(一)(1)、3(二)(1)の各事実、同3(二)(2)の事実のうち本件第二倉庫の床面積が18.52平方メートルであること並びに同5の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二1 ところで法三条一項の規定により、「構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分」は、区分所有権の目的とならないものとされ、かかる建物の部分は、法二条三項に規定する「専有部分以外の建物の部分」として、同条四項に規定する共用部分である。
そして、右の「構造上区分所有者の……共用に供されるべき建物の部分」とは、数個の専有部分に通ずる廊下、階段室あるいはエレベーター室のように、その構造自体が区分所有者の共用に供されるべきものがこれに該当することはいうまでもなく、また、機械室のように、区分された建物の部分でも、それに共用設備が設置されているものにあつては、その共用設備の設置が当該建物の部分の構造上のものである場合、すなわち、構造的に共用設備を設置するものとして造られているために、その建物の部分を独立して建物としての用途に供することができない場合に、はじめて共用部分に該当することとなるのであつて、区分された建物の部分に共用設備が設置されていても、なお独立して建物としての用途に供することができる場合は、共用部分に該当しないものと解すべきである。換言すれば、一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分が、その一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有していても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面かかる使用によつて共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、そのような建物の部分は、法にいう専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当であつて、かかる専有部分をも含めた専有部分以外の建物の部分か共用部分として、区分所有権の目的とはならないのである。
そこで、以下、右のような見地から、本件倉庫が右の共用部分に該当するかどうか、換言すれば、専有部分として区分所有権の目的となりうるかどうかを検討することとする。そして、前記争いのないものとして確定した事実によれば、本件倉庫は、本件第一倉庫及び本件第二倉庫からなり、両者は、床面から天井までコンクリートブロックによつて仕切られているので、それぞれ構造上区分された各別の建物の部分であることが明らかであるから、右各倉庫が各々専有部分として区分所有権の目的となりうるものであれば、本件倉庫も区分所有権の目的となりうるから、本件第一倉庫及び本件第二倉庫が各々独立して区分所有権の目的となりうるかどうかを検討することとする。
2 先ず、本件第一倉庫は、前記事実によれば、本件建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる外形を有する建物の部分であると認められるが、そこには、本件建物の区分所有者らの共用に供される設備として、電気スイッチ及び積算電力計の配電盤、換気、汚水処理及び揚水ポンプなどの動力系スイッチ並びに汚水マンホール及び雑排水マンホールが、別紙第一図面及び同第二図面のとおり、いずれも本件第一倉庫の入口近くに設置されている。しかし、これらの設備自体と右スイッチ等の操作、マンホールの清掃等のために必要な場所の本件第一倉庫内に占める部分は、本件第一倉庫の床面積及び空間に比して極めて僅小な部分にとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができるものと認められ、かつ、右各種スイッチ操作のため本件建物の管理人が必要とする一日三回程度の右部分への出入や右マンホールの清掃のための出入によつて本件第一倉庫の右のような排他的使用に格別の制限ないし障害が生ずるとはいえないものというべきである。また、別紙第二図面付近を中心に設置されている電気及び水道のパイプ、北側物置の扉の上部に設置されている電気、水道等のパイプの存在が、本件第一倉庫の前記排他的使用に格別の制限ないし障害をもたらすものではないことも明らかである(この点は、通常の専有部分の天井上部に共用設備である各種パイプが通されているのと何ら異なるところはない。)。そして、本件第一倉庫が区分所有権の目的となるとしても、その区分所有者は、本件建物の他の区分所有者に対し、本件建物の管理人等による前記各種スイッチの操作等本件第一倉庫内に設置されている共用設備の保存及び管理のために必要な合理的な時間内の本件第一倉庫の空間の利用を受忍すべき信義則上の義務を負うものと解されるから、前記のような排他的使用によつて、共用設備の保存及び他の区分所有者らによるその利用に影響はないものというべきである。
したがつて、本件第一倉庫は、専有部分といえるから、区分所有権の目的となりうると認めるべきである。
3 また、本件第二倉庫は、構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる外形を有する建物部分であることが明らかであり、他の区分所有者らの共用に供される設備として、床から高さ約2.05メートルの高さの部分に電気、水道等のパイプが設置されているにとどまり、この共用設備の利用、管理によつて本件第二倉庫の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがあるとは認められないし、また、右排他的使用が前記パイプの保存等に格別の影響を及ぼすものでないことは、本件第一倉庫について述べたと同様であるから、本件第二倉庫も専有部分として区分所有権の目的となりうると認めるべきである。
三以上判示したとおり、本件第一倉庫及び本件第二倉庫は、いずれも共用部分ではなく、専有部分として区分所有権の目的となりうるものであり、被控訴人らは、他に右各倉庫に対する共有持分権の取得原因事実を主張・立証しないから、被控訴人らは、本件第一倉庫及び本件第二倉庫、したがつて本件倉庫に対し共有持分権を有しないものというべきである。
そうすると、被控訴人らの本件主位的請求及び当審において追加された予備的請求は、その余の点について論及するまでもなく、いずれも理由がないから、これと結論を異にする原判決を取り消し、右各請求を棄却することとする。
よつて、訴訟の総費用につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。
(香川保一 菊池信男 柴田保幸)
物件目録
第一
所在 目黒区下目黒参丁目五五五番地五
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根七階建
床面積 壱階 799.42平方米
<弐階〜七階 右同略>
第二
(一) (一棟の建物の表示)
第一に同じ
(二) (専有部分の建物の表示)
家屋番号 下目黒参丁目五五五番五の七参
建物の番号 第弐号
種類 倉庫
構造 鉄筋コンクリート造壱階建
床面積 壱階部分81.09平方米